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電車男にならなかった男のその後

2006–02–07 (Tue) 23:59
「賀沢君合格~」

化粧品売場に戻っての、ほぼ最後の研修。
明日からはここでもひとりだちが始まります。
とあるベテラン販売員さんからは
「やさしく急かしてあげるから頑張るのよ」
と激励をいただき、
先輩たちからは
「何も言うことないね、問題ない!」
と太鼓判を戴きました。
相変わらず肩身の狭い立場と立ち位置であることは変わりませんし
持ち前のフランクさはある程度残しつつも
基本的には謙虚に振舞う(装う、とも言う)姿勢も
依然堅持し続けていますが、
正直、今日はなかなか充実感に満たされた一日でした。

さて、埼玉に下る帰りの電車は近頃、
遠方まで帰宅する客で混雑しやすい急行をあえて乗ることをさけ、
現在はできるだけ快速電車に乗ることにしています。
快速なら、不快感も和らぐし、
問題の場所にいなければ、
私も件に書きましたような、
必殺「お黙りなさい」なんて、
かまさなくても済むわけです。
今日はたまたま座ることもできましたし、
これなら辺に絡むこともあるまい

……そう、思っていたのですが。
やっぱりこの電車は、埼玉行きのブルーカラー・トレインなんです。
私はまたも、同じような乗客の隣になってしまいました。
見てくれだけならば、
それこそ大手町を歩いても違和感なく溶け込めるような
ホワイトカラーのエリート・サラリーマン風な格好をした私。
(でもたぶん、それとなく変なのでしょうが)
その隣にはなんと、
件に口論になったあのおっさん……ではありませんが、
それと同種のおっさんが腰を下ろしていたのでした。

注意して、席を選ぶべきでした。
隣など、まったく見ていなかったのです。
私が見落としてしまうほど、
このおっさん、本当におとなしかったのです。
普通に座っていましたし、特に変な挙動もなかった。

ところが、電車が込み合い始めた頃になるのを見計らったかのように、
徐々に大股開きになって、
最後は短い足を全開に広げて投げ出したのでした。
口からも謎の擬音をほとばしらせて
眠っているのだかなんだか解らない状態です。
酒気を帯びているようではありませんでしたが、
(若干入っていたかもしれませんが。)
ひとりごとともうめき声ともつかぬ異音は不規則に周囲を揺さぶり、
明らかに私を含めておっさんの周囲にいた全員が
後悔の色を顔に浮かべたのでした。

そんな我々のどうしようもない後悔に追い討ちをかけるように
おっさんが、口臭を吐き出したのでした。
腐臭に近いその匂いは、内臓から直接吐き出しているかのような
いやな匂いでした。
私の鼻先で、地獄の黙示録が描かれます。

席を替えよう、否、立とう。
最悪乗り換えてしまおう。
そう思い立ったのですが、
周囲はすでに人ごみと化し、
電車が発信するベルが鳴り響きます。
動くに、動けなくなりました。


忍耐の時間の、はじまりでした。


依然として節操なく大股開きのおっさんを無視して
私は平静を装い、読書に興じ始めました。
状況のわりには案外冷静で、
字面がおえなくなるほどのものではありませんでした。
たまにうめき声ともいびきともとれぬ
謎の擬音を発する以外は、特に体勢もかわりません。
大股ひらかれて迷惑しているのは、あくまで目の前に立つ乗客と
隣に座る私だけですから、(おっさんは一番端に座っている。)
黙殺すればすむだけのことです。
眼前に立つ男も、そして私も、その意味では同士のようでした。

しかし、おっさん、なかなかやります。
今度は堂々と手をまたぐらに持って行き
鷹揚にイチモツをもみ始めたのです。
ズボンの上から、ですが。
私はこの時を境にして、
相手は明らかに誘っているとしか、
思えなくなってきたのでした。
過ちの坂を、ふたたび下り始めているのです。


思わず私は、
依然はぐさんに煽られた、とある台詞を思い出しました。
はぐさんはこの日記の前回記事を読まれたあと、
私に興奮した語調でこう告げてきたのでした。
「この次は是非、『さわるな!けがらわしい!』って言ってよw
そしたらもう、一生ついていっちゃうね!」
一生ついてこられても、困惑するだけなのですが、
はぐさんの提示したその台詞は、私の耳朶を、
そしてナルシストでノーブルな胸中を激しく揺さぶったのでした。

……さわるな……けがらわしい……

刹那、その手が無造作に、
私とおっさんの間にあるわずかな空間に転がってきました。
私はそれを、目で追いませんでした。
むしろすでに、口先が震え始めていたのです。
高まりつつある緊張に、私は喉を鳴らしました。

チャンスじゃん……今、まさに……使える!!   ウホ!


そうなのです。
私は明らかにこのとき、
ただネタを作るためにしか、思考を巡らせていなかったのです。
以前の話は、明らかに純粋な苛立ちと憤りから生まれた行動でしたが、
今回はすでに、私の中に巣くう作為が、介入し始めていたのです。
虚構に曇りかけた私の視野は、
明らかにこの一時を脚色し、差し替えていました。

げにも汚らしい(実際の10倍は汚く見えている)下賎な愚民が
ズボンの中にまで突っ込んだその手で、
祖父の形見である、この高級なコートの裾をかすかに汚した――

私は思わず、かぶりを振りました。
″脳内賀沢会議″が紛糾し始めたからです。
はぐさんという外部の扇動者にそそのかされた
貴族的選民思想主義者たちが声高に叫ぶ中、
安定多数を保持できない与党・理性民主党はうろたえるばかり。
そこに、統一性をかきながらも
情緒的に流されやすいリビドー党が羞恥主義派閥を中心にして
畳み掛けてくるのです。
「出兵!出兵!高飛車主義バンザイ!(そしてネタ人生バンザイ!)」

薄れゆく理性を必死で繋ぎとめようと
読書に集中しようとする私の隣から、
再び地獄の黙示録ブレスが噴出。

「おっさんは誘っている!」
「今のは明らかに宣戦布告だ!」
「断固、開戦!」
「『一喝ミサイル』発射準備整いました!」
「蹴り上げろ、ち○ぽ!」
「精密爆蹴食らわせろ!!!!」
聴こえるはずのない大歓声の中、
私は静かにまぶたを閉じ、歯軋りします。
もはや問題は、おっさんにありませんでした。
重度の妄想にとりつかれはじめてた、私の心にありました。
ノーブル党10万の賀沢の群集を駆り立てて叫びます。
「保守と高潔を我らに!下賤なる者の無礼を許すな!」
先頭に立つのは何故か、
『民衆を導く女神』の絵画のごとくひとりの女性。
はだけた服をそのままに、つややかな太ももを前に突き出し
勇ましくためらわず、大地を蹴って自由の旗を掲げて進むその姿は、
はぐさんでした。
……会った事ないんですけど。
そう思ってよくよく目を凝らすと、
やっぱり顔は、私なのでした。

おお、グラマラス!オレ!

もはやおっさんの吐き出す地獄の黙示録などそっちのけで
群集と機動隊でごった返す妄想賀沢都市の狂騒に押しつぶされた私は
もはやその場にいないも同然でした。
きっと、その息が、
その息の臭さが原因だ……!

私の降りる駅に着きました。
私はかろうじてそのアナウンスを聞き届けると、
ふらりとした足取りで立ち上がり、
何も言わずにおっさんの足先を踏んづけて出て行ったのでした。
故意ではなく、
そこが、進路だったから。

とりあえず、罵声も怒声も異音も異臭も、
私には届いてこなかったので、問題なし。

いや、大いに問題だ、オレ自身が。
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賀沢祐介

Author:賀沢祐介
かつて詩人を称していた男。
細々と小説などを書き綴りながら文筆の先に悦びを見出そうとしている。
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