その日もりき丸は気だるそうな足取りで自宅の門を潜ったのだった。
楽市楽座に初の当選を果たして後、連日のように自邸で売り子と商品の値段を相談する日々が続いている。
何しろ、昔からりき丸には売るものがない。
事実、りき丸邸の楽市楽座でも、帰ってきた草壁桜姫の妹薬師が作った透漆を委託販売する以外に目玉がない。
市場より低下で設定したその透漆の売れ行きは好調だ。
表示して5分しないうちに完売してしまうような売れ行きなのだ。
むしろそれが悩みだった。
その5分が過ぎてしまえば、商売棚に陳列されているものは、りき丸が箱あけで拾ってきた戦利品や、貯め続けて不良在庫となった採集材料ばかりだ。
だが、そこにはひとつだけ、他の売買品を圧倒する金額で置かれたひとつの布切れがある。
煤けて小汚く擦り切れそうなその布切れは、その古めかしさ故かどこか妖気をまとっているようにも見える。
その布きれは、とある数奇な幸運がもたらした。
りき丸の導師のひとりである某宰相の誘いに応じて狩りに行った不入山冥境(いらずやま・めいきょう)。その奥地に住まう虚鬼という鬼から奪いとったあやかしの槍《一丸八》より、解体具を使って取り出したのが、その未知の材料である。
現在、この雑巾にすらならない布切れが、市場価格10000貫以上もの値をつけて売られている。古の型の大鎧を生産するために必要な材料らしく、相当高価な取引がなされているのは、現在確認されている限りで、この槍からの解体によってしかその材料が取れない故だ。
知力付与装備をえるための金策に奔走していたりき丸は、その得体も知れない布きれに11000貫の高値をつけて売りに出した。
実はこれでも市場最安値の金額である。
しかし、1万貫。
炭鉱労働者のりき丸がどうひっくり返っても貯金することのかなわない金額、それが1万貫。
おいそれと売れるはずがない。
売りに出して4日目、りき丸は桜姫のおろす透漆を受け取りに自邸に戻り、売り子に透漆を下ろした。
何気なく顔を上げたりき丸は、陳列棚の先頭にあったあの布切れがないことに気付いた。
売り上げ箱を開けたその中に入っていたものは、間違いない、11000貫に及ぶ金子の山。
甲賀りき丸、この世界に生を受けてより2年半にして、はじめて1万貫をこの手に握ることになった。
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